悪魔に恋わずらい

「僕はね、石崎さんの理想の男になるために留学したんだよ」

「本当に……?」

累くんは答えない。ただ、すべてを見透かしているかのように微笑むだけだ。

まさか、本気で中学生のたわごとを信じたっていうの?

5年前、累くんが突如として留学したのは私のためっていうこと?

「幸せにするよ、石崎さん」

……それは甘美な誘惑であった。

指輪を手に取れば、累くんは間違いなく私は幸せにしてくれだろう。

ただし、そこに私の意志は介在しない。

愛が伴わない。なんて虚しいプロポーズ。

(私は……)

膝の上にのせていた両手をぎゅっと握りしめ心を決める。

「帰る」

椅子を引いてバックを取ると、私は逃げるようにしてレストランから飛び出した。

< 33 / 73 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop