悪魔に恋わずらい
「僕はね、石崎さんの理想の男になるために留学したんだよ」
「本当に……?」
累くんは答えない。ただ、すべてを見透かしているかのように微笑むだけだ。
まさか、本気で中学生のたわごとを信じたっていうの?
5年前、累くんが突如として留学したのは私のためっていうこと?
「幸せにするよ、石崎さん」
……それは甘美な誘惑であった。
指輪を手に取れば、累くんは間違いなく私は幸せにしてくれだろう。
ただし、そこに私の意志は介在しない。
愛が伴わない。なんて虚しいプロポーズ。
(私は……)
膝の上にのせていた両手をぎゅっと握りしめ心を決める。
「帰る」
椅子を引いてバックを取ると、私は逃げるようにしてレストランから飛び出した。