悪魔に恋わずらい
「お邪魔しまーす……」
抜き足、差し足、忍び足。
リビングを挟んで反対側にある累くんの部屋にそろりと立ち入る。
近所のスーパーまでは歩いて20分。
どんなに急いでも往復で30分は帰ってこないだろう。
“男ならえろい本やらDVDのひとつでも隠し持ってるもんでしょうよ”
樹里にそそのかされたつもりはないが、累くんの正常な男性らしい一面を確認しておきたいという気持ちには抗えない。
彼に私以外の女性に興味を持ってもらわないことには、一生彼氏ができない。
中学、高校、ついでに大学生になっても彼氏どころかまともに会話の出来る男性と巡り合えていない。
……大抵の人は累くんの嫌がらせに耐えきれなくなるからだ。
(家主のいない間に家探しなんて気が引けるな……)
ルームシェアを開始してからひと月近く経過しているが、累くんの部屋に入るのは初めてだった。