悪魔に恋わずらい
「その後、明石とはどうなの?」
立食形式のパーティーで会話が自由なのをいいことに、樹里はその後の近況を尋ねてきた。
「プロポーズされた」
「え!?」
「……でも、断ったよ」
樹里は二度びっくりというように、目をしばたたかせていた。
「私……未だに累くんのしたことを許せていないもの……」
どんな形であれプロポーズされたこと、本当は嬉しかった。
でも、私には累くんの気持ちを受け取ることが出来ない。
子供のようにあけすけに私への好意を語る彼の過去の過ちを許してしまったら、この初恋の痛みはなかったことになりそうで……。
今ではこの胸の痛みが唯一、底なしの沼のような彼の愛情に反抗している。
ふうっとため息をつくと、むにっと頬を抓られた。
「決着つけろって言ったけど、紅子が納得してないんじゃ意味ないんだからね」
樹里は全てを悟ったように優しく微笑むと、グラス同士をカチンと合わせた。
(樹里ってば……)
女同士の友情を頼もしく思っていると、隣のテーブルの男性がグラスを持ってこちらへと近づいてくる。