悪魔に恋わずらい
「この5年間、石崎さんに会えなくて気が狂いそうだったよ……」
体勢はそのままにすりすりと手の甲を頬ずりされると、こめかみがひくりと引き攣る。
相変わらずの残念なイケメンぶりに言葉もでない。
(ぜんっぜんっ!!変わってない!!)
幸いなことにエントランスに他の人の姿はない。誰かに目撃されない内にとっとと帰りたい。
「も、もういいでしょう……!?」
これ以上悪戯されない内にパッと手を振り払うと、累くんがああっと弱々しく叫んだ。
「おかえりは言ってくれないの?」
(……勝手に消えたのはそっちじゃない)
出迎えの言葉を期待するのは筋違いなのに、捨てられた仔犬のような瞳で請われると、うっと心にくるものがある。
この甘さが私の弱点でもあり、累くんにつけこまれる原因となっているのだろう。
「おかえり、累くん」
「ただいま、石崎さん」
目を細め嬉しそうに笑う様子は昔となんら変わらない。
5年の月日などものともしない、私の知っている累くんにたまらない懐かしさを覚える。
ぼうっと見惚れそうになってフルフルと首を横に振る。
(和んでどうするのよ……)
……これから彼が私を悩ませるのは必至なのに。