悪魔に恋わずらい
「まあまあだったな」
「そうですね……」
内容なんてちっとも頭に入ってこなかったけど、適当に相槌を打って誤魔化す。
映画を見たあとは少しだけ街をブラブラして、最後にカップル御用達の公園に連れていかれる。
水辺のベンチに座って夕日を眺めていると、ふいに手を握られた。
「俺と付き合ってくれないか?」
先輩は照れ臭そうに、はにかんだ笑顔を見せながら思いの丈をぶつけてくれた。
なんの策略もないまっさらな心の声だった。
(そうよ……)
累くんなんて、知るもんか。
世間には累くんよりも素敵な男性がいる。
この場で“はい”と快く返事をすれば新しい未来が待っている。
……直ぐに返事をするべきだ。待たせるのも申し訳ない。
頭では分かっているのに……喉の奥がひくついてどうにも声がでてこない。
だって今、この瞬間、私は理解してしまった。
……自分が本当に望んでいたものが何だったのか。