悪魔に恋わずらい
ご丁寧に断ったというのに累くんは最寄り駅どころか、マンションの真ん前まで私を送ってくれた。
「送ってくれてありがとう」
「どういたしまして」
「じゃあ、おやすみなさい」
ペコっと頭を下げ累くんに背を向け、マンションの自動ドアを潜る。
(疲れた……)
怒涛の展開に心労がピークに達していたのか、力なくため息をついてしまう。
ようやくひとりになれたことに安堵しながら郵便受けをチェックしていると、先ほど潜り抜けたはずの自動ドアから再び累くんが現れた。
「あれ?どうしたの?」
「ん?僕も同じマンションに住んでるからね」
「え!?」
隣に並んだ累くんが開けた郵便受けの部屋番号は確かに上の階の住人のもので……。
数日前に引っ越し業者が荷物を運び入れていたのは記憶にも新しかった。
「何かあったら、直ぐに僕の所に頼ってね。あ、何かなくてもいつでも遊びに来てね!!石崎さんならいつでも大歓迎だから」
そう言うと累くんはやってきたエレベーターに乗り込んでいった。
「嘘でしょ……」
これを単なる偶然で片付けるほど、私はバカではない。
昔から思っていたけど……。
私の個人情報を一体どこから仕入れてくるの!?
“変わっていない”など、とんでもない。
社会人となり経済力がついた分、より凶悪さを増していた。