強引上司にさらわれました
◇◇◇
公言どおりに荷物を引き受けてくれた課長と買物を終えてマンションの近くまで来ると、今夜もまた管理人さんの姿を見つけてしまった。
住人なのか、スーツ姿の若い男性と話し込んでいる。
その様子を見ながら歩いていると、不意に課長が私の右手を取った。
驚いて引っ込めようとしたものの、逆に強く握られてしまう。
――いったいなに?
そう思った次には、管理人さんに私を恋人だと紹介したからだと思い当たった。
そうまでして見せつける必要性が、私には今ひとつわからないのだけど。
大人しく、課長と手をつないで歩いた。
「あらー、こんばんは。仲良く買物でもしてきたのかい?」
私たちを見て管理人さんが目を細める。
「いいねぇ、若い人は」
私たちは会釈をしつつ、脇を通り過ぎる。
管理人さんは、私たちがエレベーターに乗り込むまで手を振って見送っていた。
ところが、彼女の目が届かないところまできても、なぜか手はつながれたまま。
離すのを忘れてる?
いやいや、だとしたら買物袋をふたつも下げた不自由な右手で、エレベーターのタッチパネルを押すはずがない。
それじゃなに……?
隣に立つ課長を横目でチラッと盗み見ると、何事もないような涼しい顔をしていた。
私のほうはというと、密室にいるせいも相まって緊張が高まっていく。
この手から早鐘を打つ鼓動が課長に伝わりませんように――。
そう祈るしかなかった。