強引上司にさらわれました
◇◇◇
「あと十分で作れるか?」
買物袋から材料を取り出していると、課長が唐突に聞いてきた。
「――十分で? 無理です」
どんな早業を使ったって、そんな短時間でキーマカレーは作れない。
ご飯だって炊き上がらない。
いくらなんでも横暴すぎる。
腕時計を見てみれば、課長の言う“あと十分”で午後八時だった。
課長のタイムスケジュールで言うところの、夕食の時間だ。
課長は私の返答に腕組みをして悩み始めた。
そこまで時間厳守なの?
私があと十分で作れる料理なんて、今朝作った目玉焼きくらいが関の山。
しかも、ご飯はなしだ。
「大急ぎで作りますから、待っていただけないでしょうか?」
課長は私をじっと見据えたあと、「わかった。今夜は特別だ」と答えた。
特別って……。
課長にとって、時間はなによりも守るべきことらしい。
それでも、せっかく“特別”を仰せつかったのだから、素直に感謝しよう。