強引上司にさらわれました
「ほかに行くところがどうしてもなくて。仕方なかったの」
貯金だって、ほぼゼロ。
新しい部屋を借りるのは、当分無理な話だ。
「朝倉課長、泉のことを好きなんじゃない?」
向かいに座る私に身を乗り出して、美優が囁く。
「ま、まさか! 違うってば!」
否定の言葉が思わず大きくなる。
課長から向けられた笑顔を思い出して、私の意思を無視して胸が高鳴る。
周りのテーブルの人たちからチラッと視線を投げかけられて、「すみません」とばかりに頭を軽く下げた。
「仕事がおろそかになるから、住むところを提供してくれただけのことなの」
「……なにそれ」
「衣食住が整ってこそ、いい仕事ができるんだって」
課長の言葉を借りて説明すると、美優はプッと吹き出した。
私、なにかおかしなことを言った?
さすがは仕事のできる男だって、私は思ったんだけど。