強引上司にさらわれました
思いがけず、ふたり


美優とそんな話をした翌週の月曜日だった。
週末に行なわれる会社説明会の会議室の手配で、七階にある総務部へ行った帰りのことだ。

エレベーター待ちをしていると、「泉」と後ろから声を掛けられた。
振り返らなくても、それが誰だか分かってしまう。
達也だ。

そのまま棒立ち状態でいると、「ちょっとこっちに」と達也が私の腕を引っ張る。
そして、すぐ近くにあった資料室へ私を押し込んだ。


「ごめん!」


ドアを施錠するなり、達也は上体を九十度に折り曲げ私に頭を下げた。


「ごめんって……」


謝られて済む問題じゃない。
私は大きなため息しか出てこなかった。

達也はしばらく頭を下げたままでいたけれど、「顔上げていい?」と自から私に聞いてきた。
『ずっと下げてろ』と言いたいのを押し殺し、「どうぞ」とぶっきら棒に答える。

達也は、眉尻を下げた困り顔を私に見せた。


「荷物、運び出したんだな……」


気づいたということは、あの部屋に帰ったということか。

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