強引上司にさらわれました

達也のひと言は私から言葉を奪った。
つまり、私のことは好きじゃなかった、と。


「ごめん、変なこと言ってるよな、俺」


焦って達也が謝る。


「……あ、ううん。大丈夫……」

「泉のことは好きだったよ。でも友達の延長みたいな感じだったんだよな……」


わかる。
私もそうだった。

ドキドキしたり、ああでもない、こうでもないって悩んだり嫉妬したり、そういうことが全然なかった。

でも、それはそれで穏やかな毎日を過ごせるんじゃないかって。
結婚には、それくらいのほうがいいんじゃないかって思った。
だから、達也とあの日を迎えたのだ。


「ごめんな、泉。本当に申し訳ないことをしたと思ってる」

「……本当だよ。それなら、どうしてもっと早く言ってくれなかったの? そうすれば、結婚式だって取り止められたのに……」

「ごめん……」


達也はもう一度深々と頭を下げた。


「結婚式の費用も新婚旅行の費用も、全部俺が負担するから」


達也の罪は、口を閉ざしたこと。
私の罪は、それに気づかなかったこと。

達也だけが悪いとは言えないような気がした。

< 113 / 221 >

この作品をシェア

pagetop