強引上司にさらわれました
達也のひと言は私から言葉を奪った。
つまり、私のことは好きじゃなかった、と。
「ごめん、変なこと言ってるよな、俺」
焦って達也が謝る。
「……あ、ううん。大丈夫……」
「泉のことは好きだったよ。でも友達の延長みたいな感じだったんだよな……」
わかる。
私もそうだった。
ドキドキしたり、ああでもない、こうでもないって悩んだり嫉妬したり、そういうことが全然なかった。
でも、それはそれで穏やかな毎日を過ごせるんじゃないかって。
結婚には、それくらいのほうがいいんじゃないかって思った。
だから、達也とあの日を迎えたのだ。
「ごめんな、泉。本当に申し訳ないことをしたと思ってる」
「……本当だよ。それなら、どうしてもっと早く言ってくれなかったの? そうすれば、結婚式だって取り止められたのに……」
「ごめん……」
達也はもう一度深々と頭を下げた。
「結婚式の費用も新婚旅行の費用も、全部俺が負担するから」
達也の罪は、口を閉ざしたこと。
私の罪は、それに気づかなかったこと。
達也だけが悪いとは言えないような気がした。