強引上司にさらわれました

「それはそうですけど……」


達也のマンションへ越したことを仕事中に浮かれて話していて、“仕事中だぞ”という鋭い視線を課長から投げつけられたことを思い出した。
その話を聞いていたから、課長は今の私に行き場がないことを知っていたのだ。

実家は山梨。
思い当たる友達は何人かいるものの、突然押しかけて居候をお願いするのはさすがに気が引ける。

日曜日の明日一日で部屋探しができないこともないだろうが、もともと少ない貯金は新婚旅行の支払いなどの結婚関連でほとんど使ってしまい、敷金礼金を払えるほどは残っていない。
困っていることに間違いはなかった。


「ホームレスにでもなるか?」

「ホ、ホームレス!? それは嫌です!」

「それならば迷ってる暇はないだろう」


課長は顔色ひとつ変えずに淡々と言った。
それはまるで、近々行われる新卒採用の打ち合わせの話でもしているようだった。

確かに、どうしようかと悩んでいる余裕はない。
今夜はいいとして、明日から寝る場所がないのだから。


「……どうしてですか?」

「なにがだ」

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