強引上司にさらわれました
「どうして、助けてくれるんですか?」
一瞬だけ朝倉課長の瞳が揺らいだ。
いくら上司とはいえ、部下の私生活まで気にかけるなんて、どうかしているとしか思えない。
仕事は期日を必ず守らせ、もしも過ぎることがあれば反省書を書かせることもしばしば。
スピードはもちろんのこと、丁寧さも要求される。
その上、常日頃から業務改善の提案や挑戦意欲を強く求められ、それに疲弊して異動していく人も何人か見送ってきた。
そうであってもやり方を変えることはせず、その人たちを引き留めることもない。
とにかく厳しいのだ。
だから、今回の課長の申し出は、普段の仕事ぶりからはとても想像がつかないものだった。
もしかしたら……朝倉課長はものすごく優しい人なのかも。
職場ではそれを見せないだけで、心はとっても温かいのかも。
課長の見方が少し変わりそうになっていたときだった。
「衣食住が整ってこそ、存分に働けるというもの。麻宮が仕事に身が入らなくて困るのは、上司である俺自身だからだ。間もなく新卒の採用も始まるんだぞ」
課長が手厳しく言い放った。
私の心配ではなく、仕事の進み具合を心配するからこそのお誘いだったのだ。