強引上司にさらわれました
「なにかあったの?」
美優が片方の耳に髪をかけて、私たちの会話に入り込む。
「課長と麻宮さんの仲を疑っちゃって」
野沢くんは「ヘヘッ」と頭を掻いた。
その言葉を聞いて、美優が私に意味深な視線をよこす。
「ち、違うよ。なにもないからね?」
課長の部屋に転がり込んでいることを知っている美優だけに、妙な誤解は野沢くんよりもしやすい。
強く念を押す。
「ほんとすみませんでした」
野沢くんは何度も謝ってホッとしたように、ご飯をかきこんだ。
「あ、噂をすればなんとやらだ」
大きな唐揚げを飲み込んだ野沢くんは、箸を持ったまま目線をある方向で止める。
つられて見てみれば、そこには朝倉課長の姿があった。
立って空のトレーを持った状態で、女子社員と話し込んでいる。
あれは確か、美優と同じキャンディ事業部の三田村翔子(みたむら しょうこ)さんだ。