強引上司にさらわれました
新卒採用を失敗させたくないからだ。
それでなくとも最近は、潜在能力の高い学生を集めることが困難になっていると、課長と部長が話しているのが漏れ聞こえたこともある。
そんな状況において、私の職務の遂行能力の低下まで心配したくないのだ。
遅れは取るな、しっかりついてこいということだ。
「大丈夫ですから。仕事はきちんとこなします。住むところだって、なんとかします」
朝倉課長と一緒に住むなんてとんでもない。
九時までにお風呂に入れだとか、朝は六時には起きろだとか、タイムスケジュールを組まされたらかなわない。
しかも、それができなかったら反省書。
課長ならやりかねない。
そんな生活に耐えられるはずがないのだ。
ピョコッと頭を下げて課長に背を向け走り出す。
「おい! 麻宮! 俺のところへ来い!」
私を呼び止める彼を振り切った。
課長ってば、どうかしてる。
『俺のところへ来い』とか、意味分かんないし。
訳のわからないことを言わないでほしい。
フロントで部屋の鍵を受け取り、ノンストップで上昇するエレベーターで最上階のスイートルームへと逃げ込んだ。