強引上司にさらわれました

「――ううん、なんでもない」


そう答えたものの笑顔すら浮かべられない。

まさか私、課長のこと……?
すぐには認められなくて、認めてはいけない気がして、必死に“そうじゃない”と否定する。

でも……。

課長を見ていると胸が落ち着かなくて、笑いかけられるとドキドキして。
今だって、ほかの女の人と親密そうにしている姿を見て、私、嫉妬してる。
達也とじゃ、こんなふうにはならなかった。

舞香ちゃんとのことを知って、悲しいと感じたのは、私がそのことに気づかなかったことに対して。
彼女に嫉妬もしなかった。

さっきのミーティングで、課長が野沢くんに言ったひと言を思い返す。
『思い込みで変な詮索をするな』
その“思い込み”という言葉に苦しさを覚えたのは、課長が私に対して“勘違いするな”と言っているように感じたからだ。

あの夜は“愛情”とは違う次元で起こったことだと、課長は念押ししたかったのだ。
それを言葉のニュアンスから感じ取って、私の心が痛んだ。

すべてが、ひとつのことにつながることに気づいてしまった。


私、課長のことが好きなんだ。


でも、そう悟ったところで、私に明るい未来はない。
課長にとって、私は単なる部下だから。

もう一度ふたりのいたほうを見てみると、そこに姿はもうなくて、テーブルへと場所を変えて話し始めていたのだった。

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