強引上司にさらわれました

「課長、どういうことですか?」


最初に口を開いたのは、野沢くんだった。

気のせいなのか、いつものような軽い調子がどこかへ消え失せている。
普段の野沢くんなら、茶化すように軽口を叩くというのに。
横顔を見てみれば、真剣な表情で真っ直ぐ課長を見据えていた。


「彼女から大事な話があるそうだ」


課長が、野沢くんだけを見て言う。


「大事な話って……ふたりが付き合うことになったとかいう報告なら、別に必要ないですから。そんなのふたりで勝手にやってくださいよ」


キツイ口調なのに、どこか苦しそうに野沢くんは言った。
どうして野沢くんがそこまで突っかかるんだろう。
課長と三田村さんの交際宣言だとしたら、悲しいのは私だけじゃないの?

今ひとつ状況がわからなくて、私ひとりだけ置いてきぼりにされた気分だ。


「樹生(みきお)、違うの」


“樹生”?
それって、野沢くんのファーストネームだよね。

なんで三田村さんが呼び捨てに?

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