強引上司にさらわれました
「いいの、朝倉くん」
三田村さんは課長を制すると、姿勢を正して野沢くんを真っ直ぐ見つめた。
「あのね、実は、お腹に樹生の……」
――え!? 赤ちゃんが!?
これには野沢くんも仰天するほど驚いたようで、体をのけ反らせた弾みで椅子がガタンと音を立てる。
三田村さんは愛おしそうにお腹を撫でていた。
「野沢、そういうことだ」
「……そ、そういうことって。……どうしてそのことを父親である俺より先に課長が知ってるんですか」
野沢くんが、今度はテーブルに身を乗り出して課長に抗議をする。
「自分から別れを切り出しておいて、子供ができたからって野沢にすぐに言えないだろ」
「だからって、どうして課長なんですか。なんで直接俺に言ってくれなかったんだよ」
「ごめんね……。言い出しづらくて……それで朝倉くんに相談に乗ってもらっていたの」
課長と三田村さんが一緒にいたのは、そういう理由からだったのだ。