強引上司にさらわれました
唇を尖らせたままだったものだから、私は思わずクスッと笑ってしまった。
「な、なんで麻宮さんがそこで笑うんすかぁ」
「だって、なんかいいなと思って」
素直な感想だった。
チャラいだけだと思っていた野沢くんが、実は結婚まで真剣に考えていた彼女がいたなんて。
子供ができたことを知らされて、男気たっぷりに結婚すると宣言まで。
結婚式に新郎に逃げられた私とは大違いだ。
「ったく、みんなでなんなんですか。寄ってたかって俺をいじめて」
「ごめんね、樹生」
「もういいよ。結果オーライだし」
最終的に野沢くんは、いつもの愛嬌たっぷりの笑顔を浮かべた。
「やっと麻宮の出番だ」
「……え? 私、ですか?」
自分の胸を指差す。
課長はふたりのサインがされた婚姻届を私のほうへと滑らせた。
「立会人のところに麻宮のサインを」