強引上司にさらわれました

唇を尖らせたままだったものだから、私は思わずクスッと笑ってしまった。


「な、なんで麻宮さんがそこで笑うんすかぁ」

「だって、なんかいいなと思って」


素直な感想だった。

チャラいだけだと思っていた野沢くんが、実は結婚まで真剣に考えていた彼女がいたなんて。
子供ができたことを知らされて、男気たっぷりに結婚すると宣言まで。
結婚式に新郎に逃げられた私とは大違いだ。


「ったく、みんなでなんなんですか。寄ってたかって俺をいじめて」

「ごめんね、樹生」

「もういいよ。結果オーライだし」


最終的に野沢くんは、いつもの愛嬌たっぷりの笑顔を浮かべた。


「やっと麻宮の出番だ」

「……え? 私、ですか?」


自分の胸を指差す。
課長はふたりのサインがされた婚姻届を私のほうへと滑らせた。


「立会人のところに麻宮のサインを」

< 150 / 221 >

この作品をシェア

pagetop