強引上司にさらわれました
野沢くんと三田村さんを残し喫茶店を出た私たちは、駅からマンションまでの道のりを歩いていた。
「野沢くんが結婚してパパになるなんて、なんだか信じられないです」
課長の左斜めうしろを歩きながら、私はついしみじみと言った。
三月ももうすぐ終わり。
三田村さんの体が安定期に入ったら式を挙げようと、ふたりは幸せそうに顔を見合わせていた。
その頃なら、採用試験も終盤を迎えているだろうし、落ち着いて結婚式に臨めるだろう。
「課長、ずっと三田村さんの相談に乗っていたんですね。仲が良さそうだったから、てっきり付き合っているのかと」
そこで課長が突然足を止めたものだから、すぐうしろを歩いていた私は右肩が彼とぶつかった。
「どうしたんですか?」
課長はゆっくりと振り向いて、瞬きを何度か繰り返した。
「俺を避けていたのは、そういう理由なのか?」
「え……」