強引上司にさらわれました

マンションの前では、いつものごとく全身紫づくめの管理人さんがせっせと掃除をしていた。

ふたりで一緒に帰るのは確かに二週間ぶり。
私が課長を避けていたからだ。
管理人さんときたら、本当に人のことをよく観察しているのだから感心してしまう。

私が課長に追いつくなり、彼は私の手を取った。


「仕事の都合で別になっていただけです」


課長はつないだ手を管理人さんに見せつけるようにすると、紳士的な笑みを浮かべた。


「あらあら、仲が良くて羨ましいねぇ」


管理人さんが手首にスナップをきかせて私の背中をペシッと叩く。


「ど、どうも……」


私は引きつった笑顔で会釈を返した。

もしかしたら課長の心の中に、少しは私という存在を置いてもらえているのかも。
管理人さんが見えなくなってもつながれたままの手に、私の期待する未来がありそうで、なんだか心が弾むのだった。

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