強引上司にさらわれました
諸悪の根源はこんなにも身近に
月が改まって四月を迎えた。
人材開発課にとって、忙しい時期も佳境に入る。
というのも、採用試験に加えて新入社員の迎え入れも始まるからだ。
歩いて三分のところにあるホテルで入社式を終えると、本社ビルに移動して一週間の研修が始まる。
今年の新入社員は男女合わせて四十名だ。
私と野沢くんは事務処理的なことをするだけだが、課長と村瀬さんは講師も務めるから忙しさは倍以上にもなる。
私たちは、採用試験の二次に進む学生への連絡と面接官のスケジュール調整に追われていた。
「課長と村瀬さんはお弁当が出るし、私たちもそろそろお昼に行こうか」
忙しくしていたせいで十二時を過ぎたことにも気づかなかった。
野沢くんに声を掛けて立ち上がる。
「そうですね。あ、でも、俺は翔子とふたりで食べるので、せっかくですが麻宮さんの相手はできないんです」
悪びれる様子もなくニコニコとする。
「あーそうですか。それはよかったですね」
あてつけられたものだから、一本調子で返した。
単なるやっかみだ。
でもまぁ、ふたりもいろいろあったんだろうし、それを乗り越えてつかんだ幸せは手放さないでほしい。
「じゃ、お先に行きますよー。翔子が待ってるし」
「はいはい、どうぞごゆっくり」
右手をひらりと返し、ありあまるほどの笑顔で人事部の扉を指してあげた。
さてと、私もご飯食べてこようっと。
勢いをつけて立ち上がった。