強引上司にさらわれました
◇◇◇
午後八時までもう少し。
キッチンからリビングにある壁掛け時計を確認して、皿の準備を始める。
そろそろ課長が帰って来る頃だろう。
新入社員研修が始まって忙しさに輪がかかっても、きっちりと夕食の時間までに帰ってくるのだから相当几帳面な性格だ。
その研修も今日まで。
辞令の交付を新入社員全員に人事部長から出して終了する。
ちょうどよく出来上がったチキンソテーの付け合せのブロッコリーを茹で、水を切ったときだった。
部屋のインターフォンが鳴らされ、濡れた手をタオルで拭く。
課長だったら自分でカギを開けて入ってくるはず。
それじゃ、いったい誰だろう。
課長がいないから勝手に出ないほうがいいだろうか。
でも宅配便だったら出たほうがいいだろうし……。
迷った末にとりあえず出ようと決めた。
インターフォンの受話器を上げ「はい」と応答すると、相手が『え?』と怯むような様子が伝わってきた。
女性の声だった。
今度こそ正真正銘、課長の彼女の登場かも。
嫌な予感が鼓動を突き上げる。
一気に加速する心臓の音が、耳の奥で反響した。
『あの……兄は……?』
相手が躊躇いがちに問い掛ける。