強引上司にさらわれました
どうして私がこんな目に遭わなくちゃならないの?
どうしてもっと早く言ってくれなかったの?
式の当日なんて、あまりにもひどい仕打ちだ。
ほかに当たるところがなくて思わず枕を壁に向かって投げつけると、パフッと音を立てて床に落ちた。
こうなったらここの支払いはすべて達也にさせて、やけ酒にやけ食いだ。
勢いをつけて起き上がり、サイドテーブルの引き出しからメニュー表を取り出す。
受話器を上げ、ルームサービスにつないでもらった。
「2710号室ですが、注文をお願いします。チーズの盛り合わせに一番高級なロゼ。それから牛ヒレ肉のステーキ、あ、焼き加減はミディアムで。コンソメスープにゆで鶏のマリネサラダ、それから……」
次から次へと注文をしていく。
そして二十分後、サービスワゴン三台分にのせられて、料理が部屋へと届けられた。
テーブルいっぱいに並べられた料理は、ひとりではとうてい食べきれない量だ。
「ごゆっくりどうぞ」
白いフリルのついたエプロンを着けたスタッフが三名、揃って頭を下げる。
お客様第一のサービス業ならば、情報共有として私が逃げられた花嫁だという話は、ホテル中に行きわたっているのだろう。
その目に少し憐みの色が滲んでいるのは、私の勝手な被害妄想か。
早くひとりになりたい。
会釈程度に私が頭を下げると、形式的な笑みを浮かべて三人は部屋を出て行った。
ほどよく冷えたワインを早速グラス満杯まで注ぐ。
マナーだとか見た目だとかを気にする必要はない。
それを一気に喉の奥へと流し込んだ。
「……ふぅ」
胃が熱くなり、空きっ腹に染みわたっていくのを感じた。
もう一杯注ぎ、切り分けたステーキも口に放り込む。
続けざまにスープもサラダも口に入れ、ロゼで胃袋へ押し込んだ。