強引上司にさらわれました
「まだしてなかったんだね」
野沢くんの左手をチラッと見た。
「そうなんですよぉ。翔子が早く指輪したいってせがむものですから」
デレデレと話す野沢くんを見て、結婚とはこういうことだと思い知る。
私と達也の、なんと冷めた様子だったことか。
結婚指輪を選んだときも、あれこれ悩むことなく『これでいっか』と即決。
それをお互いの指にはめることの重さを感じることなく、形式的に結婚準備をしていたような気がする。
今になって思えば、だ。
幸せそうに唐揚げを頬張る野沢くんを羨ましい気持ちで眺めた。