強引上司にさらわれました
定期人事異動の時期は過ぎたばかり。
すぐにどこかへ行けるとは思っていなかったけれど、突発的な退職だとか産休で、人員に空きがでないとも限らない。
その空きが出たときに、少しでも早く異動できるように出したのだ。
「異動は、少し待ってもらえないだろうか」
部長の言葉に、課長が私のことを見たのを横顔に感じた。
「それはもちろん、すぐにどうこうできるとは思っていませんでしたが……」
「それならよかった。実はですね、朝倉くんに異動の話がきているんですよ。ふたりいっぺんに人材開発課から抜かれてしまうのは、こちらもダメージが大きいですからね」
課長が、異動……?
そんな希望を出していたんだろうか。
「異動願いが通ったんですか」
「……あぁ、そういえば半年ほど前だったかな? 朝倉くんが異動願いを出したのは。ただ、朝倉くんの異動願いが通ったというよりは、向こうから朝倉くんをぜひにということでね」
「向こうとおっしゃいますと?」
「グローバル部だ」
グローバル部といったら、各国に散らばる事業所と連携して、全世界向けの商品の企画開発を行なう部署だ。