強引上司にさらわれました

ただ、片時も離れたくないというような恋焦がれた記憶が達也とはないことが、ちょっと気がかりだったりもするけれど、それはそれ。
熱愛とは決して呼べなかったが、ほどよい“温度”が心地良かったし、そのほうが長続きするような気がする。

現に、そうして二年間は穏やかに過ぎてきたのだから。
きっと達也となら、結婚してからも平穏無事な生活を送っていけると思う。

お互いに二十八歳。
年齢的にもちょうどいいじゃないか。
仕事を続けたまま二年くらいはふたりの生活を謳歌して、子供はそれからでも充分間に合う。
ゆっくり、ゆったりと生きていけそうな気がした。


「では、誓いの口づけを」


神父様の言葉に、私は達也のほうを向いて軽く膝を折り曲げた。

達也が私に掛けられていた純白のベールを持ち上げる。
彼の手が私の肩に置かれて瞼を閉じ、今まさに達也の唇を受け入れるというときだった。
教会のドアがバーンと開けられた音に驚いて、目を開ける。

達也と揃ってそちらに顔を向けると、そこにはひとりの女の人が立っていた。
それは、同じ会社で働く後輩の女の子だった。

私たちの同僚や上司、親や親戚などの招待客も一斉にドアへと振り返る。

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