強引上司にさらわれました

「あ、そ、そうだったね。わ、忘れてたなー」


私の演技の下手さといったらない。


「送別会もしないといけませんよね。さすがに今日なんて無理でしょうけど」

「そ、それはダメでしょー。ほら、時差ボケでつらいだろうし」

「ですよねぇ。ってか、麻宮さん、なんか焦ってません?」


ええ、さっきから焦りまくってますよ!
早いところ、野沢くんとの話を切り上げたい。


「ううん、そんなことぜーんぜん」


余裕の構えでゆったり椅子にもたれたところで、部長が男の人を引き連れてやってきた。
確か彼は、経営企画室の水森さんだ。

企画室長の下で、敏腕を奮っているという噂を聞いたことがある。
三十代後半にして、役員も遠い話ではないと。
そんなキレ者の水森さんが、人事部にいったいなんの用事だろう。


「みんなに紹介しておこう。我が人材開発課の新課長、水森くんだ」

「……え?」

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