強引上司にさらわれました
足を止め、息を飲み込んだ。
回された課長の腕に力が込められ、髪の毛に彼の唇が触れた気配がした。
早鐘を打つように高鳴っていく鼓動。
今にも暴れ出してしまいそうな心臓は、もう私にはどうにもならなかった。
「泉が熱烈な見送りをしたもんだから、早く帰りたくてたまらなかったじゃないか」
それは私も同じだ。
会いたくて、指折り数えて課長の帰りを待った。
そんな風にして誰かを待つなんてこと、今までしたこともなかった。
「その責任を取ってもらう」
「……責任?」
「その前に、なにを作ってくれたんだ?」
「あ、えっと……手巻き寿司にしました。日本食が恋しかっただろうなと思って」
毎日、肉料理やジャンクフードばかりだっただろうから。
「……寿司なら、向こうで毎晩食べてた」
「え!?」
予想だにしない課長のひと言に、その腕を振り払って振り返る。
「高木部長の好物らしい。毎晩、シカゴの寿司屋に通い詰めたよ」