強引上司にさらわれました
さて、いよいよ現実的なことを考えなければならない。
いつまでもお酒に逃げている時間はないのだ。
まずはバッグからスマホを取り出す。
すると、何件かの着信が入っていた。
一件はお母さん、それから地元にいる高校時代の友人、そして同期入社で今一番仲良くしている北原美優(きたはら みゆ)から十分おきに三回だった。
当然なのか、達也からはない。
まずは高校時代の友人からだ。
ワンコールも呼び出し音が鳴らずに出てくれたところを見ると、相当心配してくれているようだった。
何よりも今日の謝罪がメインになる。
せっかく山梨から出てきてくれたのに、こんな結果になったことを何度も謝ると、彼女はそれよりも私の今後のことを心配してくれた。
これからどうするのかと聞かれて、答えられることは特別ない。
とりあえず、寿退社という早まったことをしなかった自分を誉めてやりたい。
休日が明けたら、生きていくために今まで通り会社に行くしかないのだ。
そして、続けて美優だ。
彼女もまた、呼び出し音が鳴るか鳴らないかのところで出てくれた。
『ちょっと大丈夫なの!?』
私が「もしもし」と言う間もなく、美優が声を張り上げる。
その大きさに、一瞬だけスマホを耳から遠ざけた。