強引上司にさらわれました
◇◇◇
もう二度とこんな部屋に泊まることはないかもしれない。
翌日、朝食をルームサービスにしてチェックアウト時間ギリギリまでスイートルームを堪能してから、階下へと向かった。
本当なら、今夜の便で南の楽園へ飛び立つはずだったのに。
幸せ気分いっぱいで朝を迎えたはずなのに。
エレベーターが下降していくように、気持ちが沈んでいく。
なんでこんな目に私が遭わなくちゃいけないのか。
ため息しか出てこなかった。
フロントでチェックアウトを済ませていると、両親と聡もやってきた。
「泉、大丈夫?」
「うん」
大丈夫なんかじゃないけれど、これ以上心配をかけるわけにはいかない。
ましてや、お父さんは一度倒れているのだ。
「住むところはどうするんだ」
「このあと、会社の友達のところに。しばらく置いてもらえることになったの」
努めて明るく答える。
全然平気なことをアピールしたかった。
お父さんは、大きく肩を上下させてため息を吐くと、「ったく、いったいなにがどうなって、こんなことになったんだ」とひとり言のように呟いた。