強引上司にさらわれました
「仕事辞めて家に帰ってきたら?」
「そうはいかないよ。入りたかった会社で働けてるんだから。すぐに次の仕事なんて見つかりっこないし」
お母さんの言葉にそう返すと、彼女もまたお父さん同様にため息を吐いて「そうよね……」とポツリと漏らした。
「とにかく、なんとかなるから。私は大丈夫」
両手で拳を作って胸の前で軽く振る。
カラ元気にほかならないけれど。
「それじゃ、私行くね」
床に置いていた大きなカバンを持ち上げ、新婚旅行へ持っていくはずだったスーツケースの持ち手を握る。
「ねーちゃん、がんばれよ」
聡の力強い声援を背中に受け、私の人生史上最悪な事態が訪れたホテルをあとにし、その足で美優のアパートへ向かった。