強引上司にさらわれました
朝倉課長の妹になった日
鳴らしたインターフォンにすぐドアが開けられた。
トリコロール柄のニット素材のチュニックに黒いレギンスという、ちょっと派手めの部屋着を着た美優は、私よりも悲壮感を漂わせた顔で部屋に招き入れてくれた。
そんな表情を見て、本当に申し訳ない気持ちになる。
言っていたとおり、そこにかずくん――大森和寿(おおもり かずとし)くんの姿はなかった。
美優とかずくんの出会いは病院だった。
体調を崩して訪れた内科で、研修医として診察を見学していた彼の一目惚れだった。
将来の有望株を探していた美優にはもってこいの相手の上、容姿も申し分ない。
出会って即交際がスタートしてしまった。
ふたつ年下の二十六歳で、付き合って半年ほどだ。
「かずくん、どこに行ったの?」
「友達の家」
コーヒーを淹れにいったキッチンから、美優が答える。
通されたリビングを見てみれば、ついさっきまでここに彼がいたような気配が残っていた。
読みかけの医療雑誌、脱いだパジャマ。
私が来るからと、急いで追い出されてしまったのかもしれない。
なんだか申し訳ない気分でいっぱいになる。