強引上司にさらわれました
「ほぉ。じゃ、それは?」
課長は私が握り締めていたメモを目ざとく見つけた。
指を差してニヤリと嫌な笑みを浮かべる。
「――これはっ」
咄嗟にうしろ手にしたところで、今さら隠せるものではない。
「ほら、行くぞ」
モジモジとしている私に構うことなく、課長は私からスーツケースを奪い取った。
「あっ、か、課長! 待ってください!」
呼び止めてみたものの、聞く耳を持たず。
課長は軽やかな足取りでエントランスの自動ドアから入って行ってしまった。
その背中を慌てて追う。
すると入ってすぐのところで、課長が年配の女性に呼び止められていた。
紫色の髪の毛に紫色のセーター。
おまけにメガネまで薄っすら紫色だ。
小柄で派手なおばさまに正直面食らう。
その女性が私を見て、慌てたように駆け寄ってきた。
メガネをずり上げて、下から私の顔を覗き込む。