強引上司にさらわれました

◇◇◇

使い勝手の慣れない部屋で身支度を整えリビングへ行くと、課長はいつも私が会社で見ているスーツ姿になっていた。

コーヒー片手に涼しい顔をして新聞を読んでいる。
私に気づくと、「コーヒー淹れてあるぞ」とテーブルを顎で軽く差した。


「……ありがとうございます。あの、朝ごはんは食べないんですか?」


私の質問に新聞から顔を上げる。


「朝はいつもコーヒーだけだ」


そう答えて新聞にいったん目を落としてから、再び私を見る。


「会社に行くつもりか?」

「はい。新婚旅行も当然なくなったわけですし。それに、ひとりでいたら、思い出してイライラムカムカするだけですから。働いていたほうがいいです」


課長は瞬きを繰り返してしばらく私を見つめたあと、「いい心がけだ」と言った。
珍しく誉めてもらえて、ちょっぴり嬉しい。


「ちょうど新卒採用で忙しくなるから、こっちは助かる」


あてにしてもらえているのかと、これまたテンションが上がる発言だ。

一からまた仕事を頑張ろう。
恋はしばらく必要ない。
課長が淹れてくれたコーヒーは濃い目で、空きっ腹にかなりパンチが効いていた。

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