強引上司にさらわれました

◇◇◇

「あらぁ、兄妹そろって出勤?」


エレベーターから降りるなり、エントランスを掃除している管理人さんと遭遇した。
私たちを見つけるなり、持っていたほうきとちりとりを放り出して駆け寄る。

驚いたことに、今日も全身紫だった。
よっぽど紫色が好きらしい。


「おはようございます」


課長とそろって挨拶をすると、「今朝は一段と冷え込むねぇ」と管理人さんは背中を丸めた。


「本当ですね。伊藤さんも風邪をひかないようにしてください」


当たり障りのない言葉を課長が返すと、管理人さんがポッと頬を赤らめる。


「やだねぇ、朝倉さんったら。こんなおばちゃんに優しい言葉なんか掛けてくれちゃって。ほんっとイイ男だよ、朝倉さんは。イイ娘がいるから今度紹介しようか?」

「いえ、お気持ちだけで……」


やんわりと断り、「行こう、泉」と課長が私の背中を押す。

妹設定だから呼び捨てなんだろうけど、突然『泉』と言われてドキッとしないわけがない。
管理人さんじゃないけど私も頬に熱を感じつつ、軽く会釈をして課長と共にマンションを出た。

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