強引上司にさらわれました
制服勤務じゃないことをこのときほど感謝したことはない。
こんな空気の中で着替えなんて、さすがにしていられない。
さっさとそこを出た。
ところがロッカールームを出たところで、ここは会社内。
つまり、どこにいようがみんなの少し好奇に満ちた視線は向けられてしまうのだ。
ほぼ満員のエレベーターに乗り込み、十階にある人事部へ到着した。
「あれー? 麻宮さん、出勤してきて大丈夫なんですか?」
早速声を掛けてきたのは三つ年下の二十五歳、野沢(のざわ)くんだった。
柔らかそうな栗色の癖毛にアイドルでも通用しそうな甘いルックスは、年上の女子社員からの人気が高い。
本人もそれを知ってか、年上のお姉さま方に上手にかわいがられている。
彼もまた、参列者だった。
お気楽で能天気。
「仕事してる場合ですか?」
そして、ときに毒舌な後輩だ。
野沢くんには、ひとまず軽いジャブとして鋭い視線を投げておいた。
人事部には人事課と私の所属する人材開発課があり、部長がひとり、課長はそれぞれの課にひとりずついる。