強引上司にさらわれました

◇◇◇

気づけば私は、控室へと戻って来ていた。
どうやら、お母さんが私を連れてきてくれたらしい。

私を大きな鏡の前の椅子に座らせると、スタッフが頭からティアラを取った。


「えっ、取るの?」


思わず声を出す。


「当り前じゃない。このまま結婚式なんか挙げられないでしょ」


お母さんは眉毛を吊り上げていた。
相当怒っているようだ。


「いったいどうなってるの? 達也くん、泉以外にもお付き合いしてる人がいたの?」

「そんなの知らないよ」


歌うように抑揚をつけて言い返す。
聞きたいのは私のほうだ。

なにがどうなって、こんなことになっているのか。
どうして幸せの絶頂にいるはずの私が、ひとり控室でウエディングドレスを脱がなければならないのか。


「知らないじゃないでしょ。式の途中に、新郎がほかの女の人と逃げるなんて前代未聞よ」

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