強引上司にさらわれました

ただ、そんなことが簡単にできていたら、ほかの企業も採用に苦労はしていないのだ。
課長の言っていることは、実現不可能な理想になる。


「あの、ちょっといいでしょうか……」


野沢くんが遠慮がちに手を上げた。


「早速いいアイディアでもあるのか」


課長が期待してテーブルに身を乗り出す。


「あ、いえ。何年か前からの新入社員ってことは、俺もその質の低い社員ってことですか?」


思わず、村瀬さんとふたりで吹き出してしまった。


「あっ、村瀬さんも麻宮さんも失礼じゃないですか!」

「ごめんごめん」


別に野沢くんの能力が低いとは思っていないけれど、のんびりお気楽に仕事をこなすところを見ると、たまに首を傾げてしまうこともある。
精神的にタフなのか、課長の無言の圧力に気づいていないのだ。

入社してすぐに人材開発課に配属されたけれど、朝倉課長の元ではすぐに根を上げるだろうとばかり思っていただけに、三年も続いていることには拍手を送っておこう。

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