強引上司にさらわれました
そんなことを言われたって……。
怒りたいのは私のほうだ。
ほかに女の影なんか全然感じなかったし、達也の態度に異変もなかった。
ケンカをしたことすらない。
昨夜だって、電話越しに『明日から夫婦だな』なんて、しみじみ言い合っていたのだから。
舞香ちゃんと逃げるその瞬間まで、ふたりの結婚を疑う余地はなかったのだ。
「お父さん、倒れたんだから」
「え!? それで今は!?」
「大したはことないから、先にホテルの部屋に行ってもらったけど」
お母さんの言葉にホッと胸を撫で下ろした。
昨日、実家のある山梨から出てきた両親と弟は、結婚式の行われるこのホテルに泊まっていたのだ。
女の幸せは結婚にあると常々言っていたお父さんは、この結婚を誰よりも喜んでくれていた。
その式場で、娘婿がよその女に連れ去られるとは予想もしていなかっただろう。
「ほかのみんなは?」
会社関係の人や、友達はどうしたろう。
「聡(さとし)に任せてきたけど、あの子、大丈夫かしらね……」