強引上司にさらわれました
弟の聡ひとりでは、大変な思いをしているかもしれない。
なんせ、まだ大学生だ。
「達也のご両親は?」
「そんなこと、泉が心配することじゃないでしょ。あっちが全面的に悪いんだから」
「そうだけど……」
だからなおさら、辛い思いをしているだろうに。
優しいご両親なだけに、達也への怒りはさておき、いたたまれない気持ちになる。
「ほら、早く脱ぎなさい」
お母さんはスタッフに促して、私のウエディングドレスを脱がせにかかった。
本当なら今頃、会場を移動して披露宴が始まる頃だ。
控室には、お色直しで着る予定になっていたピンクのドレスが、ポツンと壁に掛けられていた。
あれ、着たかったな……。
どちらかといえば、純白のものよりもピンクのドレスを楽しみにしていたのに。
背中が大きく開いたデザインだから、ブライダルエステで念入りに背中を綺麗にしてもらったのに。
披露宴だって、一番ランクの高い料理にしたし、ふたりの出会いを再現したDVDだって、同僚に協力してもらって作ったのに。
すべて水の泡だ。