強引上司にさらわれました
達也はあれからここには帰っていないのかもしれない。
はっきりとではないけれど、ここにいたような気配は感じられなかった。
本当なら、ここに一緒に住むはずだったのに。
ふと、感傷的な思いが込み上げる。
ふたりで揃えた食器もスリッパも、なにもかも行き場がなく箱詰めされたままだった。
新婚の家庭らしく新調したオレンジ色のカーテンを見て、なぜだか悲しくなってくる。
今の今まで感じなかったはずが。
踏みにじられた未来を前にして、強い喪失感が襲い掛かった。
「おい、麻宮、大丈夫か」
「……あ、大丈夫です、はい」
滲んだ涙を指先で拭う。
「えっと、私の荷物は……あっちです」
寝室を指差した。
ドアを開けると、そこにもまた買い替えたファブリックがあったものだから、そこから目を背けて段ボールに突き進む。
部屋の隅に積み上げられた段ボールは、すべて私の荷物だ。
新婚旅行から帰ったら片づけようと、持ち込んだ状態のままにしておいたことが、ここで功を奏すとは思いもしないことだった。
手間を掛けることなく、そのまま持ち出せる。