強引上司にさらわれました

◇◇◇

そのラーメン屋は課長の言っていたとおり、マンションから三分と歩かないところにあった。
わざわざそうしているのか、暖簾も看板も出ていない。
それは、住宅街に溶け込むようにひっそりと佇んでいた。

ところが、中に入って驚かされる。
夕食時を過ぎた時間だというのに、店内は満席だったのだ。

カウンターに十席とテーブル席が五つ。
広くも狭くもないお店だ。

顔見知りか常連なのか、店主と思われる男性は課長を見て「おうっ、朝倉ちゃん」と顔を綻ばせた。
三十代後半くらいか。
タオルをねじりハチマキにして、真っ黒に日焼けした顔と対照的な真っ白な歯が印象的だ。


「珍しくひとりじゃないのかい」


私を見て、その店主がニヤッと笑う。


「まぁ、そうですね」


私も一応、頭を下げた。
そんなやり取りをしているうちに、カウンターがちょうど二席空いたので、私たちはそこへ座ることになった。

メニューを見てみると、この店はどうも醤油味しかないようだ。

< 74 / 221 >

この作品をシェア

pagetop