強引上司にさらわれました

「今日は本当にありがとうございました。課長に車を出してもらわなかったら、大変なところでした」


頭を下げながらお礼を言う。


「いいから、とりあえず飲もう」


運ばれてきたギョーザに付いていた小皿に、課長は調味料を注いでくれた。


「ここの餃子はラー油じゃなくて、からしで食べるんだ」

「へぇ、からしですか」


そうやって食べる餃子は初めてだ。
餃子のタレとからしを付けて、「いただきます」と早速丸ごと口に入れてみた。
中から肉汁がじゅわっと染み出て、からしと絡まる。


「――ん!? おいしいです!」


思わず声を上げる。

すると店主は、「だろう? この味を出すまでに俺がどれほど苦労したことか」と、演歌でも歌っているように抑揚をつけてこぼした。
私の隣で課長は、「また始まったか」と聞こえないようにつぶやいた。

そのつぶやき通り、皮の試行錯誤から味付けに至るまで、店主が身振り手振りを加えながら語り出す。

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