強引上司にさらわれました
すると、思わぬ人物がドアの脇の壁にもたれるようにして立っていたものだから、肺の許容量をオーバーして酸素を取り込んでしまった。
「課長!?」
むせながら問いかける。
私が勤める職場の上司だったのだ。
朝倉涼成(あさくら りょうせい)、33歳。
【フロスティアベニュー】で、人事部人材開発課の課長を担っている。
凛々しい細眉、くっきりした二重まぶた、少し厚みのある色っぽい唇。
手足が長くスラリとした体型に端正な顔立ちのせいで、社内でも女性ファンは多い。
今日は、ダークグレーのフォーマルスーツに薄いピンク色のネクタイが、オシャレな装いをぐっと引き立てている。
間近で見て、ついうっとりとしてしまった。
新郎に逃げられておいて、課長に見とれる余裕がある自分にも驚く。
ただ、彼は仕事に対して非常に厳しく、同じく人材開発課に在籍する私は、日々恐れながら働いている。
その課長が、どうしてこんなところに?
みんなと一緒に帰ったんじゃなかったの?
「せっかくご出席いただいたのに申し訳ありませんでした」
バッグを抱えたまま、私は頭を下げた。
仕事でカッコイイところを見せられない代わりに、せめて結婚式だけでは私の晴れ姿を見せられると思っていたのに。
結局は、新郎に逃げられるという、信じがたい展開を見せてしまった。
晴れの披露宴ならぬ、大失態の披露宴だ。
本当に情けない。