強引上司にさらわれました
『実は彼女なんです』
『やっぱり。そうだと思ったのよ』
といったところか。
「では、仕事に遅れますので。泉行こう」
そう言って歩き出した課長のあとを追いかける。
不意打ちでされた二度目の呼び捨てに、ドキッと心臓が飛び上がる。
管理人さんは「いってらっしゃーい! 仲良くおやりー!」と余計なひと言をつけて送り出してくれた。
「課長、どうしてあんな嘘を?」
妹も嘘だけど。
「あの人、詮索好きなんだ。嗅ぎまわられたら面倒だろ」
「まぁ確かにそんな感じですね」
会うたびに色眼鏡で見られていたのは、私も気づいていた。
「だから、こっちから先に彼女が望む答えを差し出しておいた。これで妙に絡んでくるとはなくなるだろう」
なるほど。
先手を打ってしまったということか。
さすが朝倉課長。
「というわけで、恋人のように振る舞うように」
課長は腕時計を確認し、「急ごう」と足取りを速めた。