強引上司にさらわれました

ひとり分の席なら、ほかにもすぐに見つかるだろうけど、せっかくそう言ってくれているのに断るのもおかしな話。
課長がトレーを置いた隣に私も腰を下ろした。


「課長も日替わりにしたんですね」


和風ハンバーグだ。
“明日の日替わりはハンバーグです”と書かれた案内板を見て、今日は絶対にこれを食べようと私は思っていたのだ。

そこで、ふとあることを思った。


「課長の好きな食べ物ってなんですか?」

「ずいぶんと唐突だな」

「……すみません。部屋に置いてもらう代わりといってはなんですが、ご飯を作らせてもらおうかと思うんです」


隅っこのカウンター席。
目の前と私の右隣は壁だし、ほかのひとに聞こえる心配はないだろうと、遠慮なく内緒の話を始めた。

課長の箸を持つ手が止まる。


「あ、迷惑だったら止めておきます」


無理やり食べさせるつもりはない。
そこまで料理上手というわけではないし。
腕前は一般的なレベルだ。


「そうしてもらうと助かる」

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