強引上司にさらわれました
◇◇◇
一緒に帰るのはみんなの手前、避けたほうがいいだろうと思い、課長のマンションの最寄の駅前にあるコーヒーショップで課長を待つことにした。
LINEでメッセージを送ると、すぐに“了解”と返信がきた。
ホットのカフェラテを注文して、窓際の席に座る。
二階席のここからだと、改札を出てきた人たちを一望できそうだ。
それほど乗降客が多そうな駅ではなさそうだが、帰宅ラッシュを迎えただけあって、たくさんの人が駅から吐き出され、また吸い込まれていく。
そんな光景をぼんやりと眺めながら、私はすでに二杯目のカフェラテを飲み終えてしまった。
課長、遅いな……。
腕時計を確認してみれば、午後七時。
スマホのLINEにも特にメッセージは入っていなかった。
どうしたんだろう。
空のカップを弄びながら頬杖を突いて外を見ていると、駅から出てきた人の中にようやく課長の姿を発見した。
歩道に出るなり駆け足で、課長は点滅し始めた歩行者用の信号もダッシュで渡る。
やけに慌てた様子は、普段の課長からは考えられない姿だった。
そんなに急がなくてもいいのに。
そう思う反面、私のために走ってくれているのかと、なんだかやけに嬉しくなる。
それもこれも、滅多に見られない課長の一生懸命なところを見たせいだろう。
妙に胸がざわついて仕方がなかった。