強引上司にさらわれました

「はい、それです」


課長が見つけたコリアンダーに加え、ナツメグもカゴへ投入。


「なんだかこうしていると、新婚さんみたいですね」


仕事帰りに一緒に買物は、ちょっとした憧れでもあった。

うっかり言った私のひと言に、課長が固まる。
それを見て、自分の失言を思い知った。

私ときたら、なにを言っているんだろう。
新郎に逃げられた分際で、新婚さんなんて。


「すみません、変なこと言って……」


即座に謝ると、課長は目を逸らして「いや」と短く答えた。

気のせいかもしれないけど、課長の耳が赤いような気がする。

自分で言っておきながら、そんな課長を見て、急に言葉の意味を意識してしまう。
やけにドキドキして心臓が落ち着かなかった。


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