降りかかった最悪で最低なstory
沢木 陽(よう)、現在ネクストブレークの俳優陣に名を連ねる若手俳優だ。
奴が高校生の頃、初めてゴールデンタイムのドラマで私が脚本を担当していたものに、オーディションを受けにきた。
当時は全くと言っていいほど、光るものがなく、当然ながらオーディションは不合格に終わった。
正直、何百人といった応募者の演技を見るため、名も無い若手など、名前すら覚えない。
それが当たり前だったし、とにかく、あの時の私は、何としてでもこのチャンスを棒に振ることはできなかった。
ゆえに、キャストについてもよほど信頼の置けると思った俳優でなければ、絶対にYESとは言わなかったであろう。
不合格の応募者の顔など、二度と見るはずはなかった。
だが、沢木は違った。
その日の予定を終え、スタジオを後にしようとした瞬間、沢木に声を掛けられたのだ。
「あっ、あの!すみません、俺、今日のオーディション受けたんですけど、何がダメだったのかどうしても教えて欲しくてっ…。」
待ち伏せされていたのか。面倒なことに出くわした。
よく見てみると、見たことのあるような顔。というか、オーディションで見たから、当然のことだろうが。。
しかし、どこからどう見ても男子高校生以外の何者にも見えない、ようは普通。演技が少しでも記憶に残った者なら、二次に進めている。
それも、そこそこ面識のある俳優に、声を掛けられるのは偶にあるが、一度も話したことの無いただの駆け出し俳優に呼び止められること自体が、不思議な出来事でもあった。
若さはある意味、罪だ。
「…記憶に残ってないから、それ以上でも以下でもない。つまり、一瞬でも表情や声、空気感、何か切り取りたいと思わせるようなシーンや瞬間があったかどうか。それが基準。」
君や、2次に通らなかった者はそれが無かった。それだけ。
早くこの面倒なガキとオサラバしたくて、さらっと告げたと思う。
その言葉をまっすぐに受け取ったであろう少年を見ると、
さっきまでの必死な形相から、唇を噛み締めていかにも悔しそうに眉間に皺を寄せていた。
一応、私の意見は言ったのだから、と背を向けてその場を去ろうとした私に、彼は言葉を発した。
「あんたの書いた作品に絶対出てやる!!いつか、記憶に残る演技だったって、絶対言わせてやる!」
さっきの不安そうな声はどこに行ったのか、と思わせるほど、力強い言葉で思いを投げつけてきた奴が何だかおかしくて堪らなかった。
その様を、今日も覚えている。
あれから10年、沢木は着実に脇役ではあるが出番を増やしていった。
まだまだ私を納得させるような演技は見れないが、プロデューサーなんかの評判は上々だ。
必要だと思ったドラマには、必ずオファーを出している。それでも、オーディションの案内だ。
なぜなら、奴は負けず嫌いだから。ああいった場に、闘志を燃やしてやってくる。
思いをぶつけてくるのだ。
だから、まだまだそんな成長を見ていたいと思う。
それは純粋に、一脚本家としての俳優への期待だ。
いつか、私が忘れられない瞬間を、あの初めて会った日を超えるような思いを、作品で見せてくれるだろうか。